傘は楽器

「傘ってね

雨音を聴くための楽器だと思うの」


ずっと昔

雨降りの午後


2人で傘を差して歩く途中

何気なく彼女はそう言った


僕は彼女のそんな感性が好きだった


それからしばらくして

彼女と別れてからも

雨降りの日には時々

彼女の言葉が浮かんでは消える


あの時

2人で使っていた傘は

もう失くしてしまった


何処かに置き忘れたのか

何処かに仕舞ったままなのか

分からないけれど


…彼女と別れてから

僕はあまり傘を使わないで居た


それは特別

センチメンタルな理由からでは無くて


僕自身が元々

傘にそんなに拘りが無かったし

車で移動することが多いからだけれど

 

新しい傘を買おうと思う


彼女の言葉を思い出した記念に

新しい傘を


優しい雨音が聴こえる

新しい傘を


あなたの傘は

どんな雨音が聴こえるだろう


最後まで読んでくれてありがとう